使用貸借における民法改正点について詳細解説
2020年4月1日に改正される民法においてマイナー論点ではありますが、使用貸借も複雑化しておりますので解説していきたいと思います。
目次
使用貸借の改正点
(1)要物契約から諾成契約へ
旧593条では、使用貸借を要物契約とされていたが、実務において、使用貸借は単に情誼的・恩恵的な関係によるものだけでなく、経済的な取引の一環として行われることも多くなってきています。実際、目的物が引き渡されるまで契約上の義務が生じないのでは、取引の安全が害されることになるため、目的物の引渡前であっても契約の拘束力を認める必要があるため、今回の改正で要物契約から諾成契約に改正されました。
新593条
使用貸借は、当事者の一方がある物を引き渡すことを約し、相手方がその受け取った物について無償で使用及び収益をして契約が終了したときに返還をすることを約することによってその効力を生ずる。
参考文献:有斐閣判例六法
(2)借主の目的物受取前の解除権の新設
使用貸借は諾成契約であるが、無償契約である性質を有しているため、契約の拘束力を緩和し、解除を認めるのが適切であるといえるから、「書面による使用貸借を除き、貸主は、借主がまだ目的物を受領してない段階であれば、使用貸借を解除することができる」と規定されました。(新593条の2)
新593条の2
貸主は、借主が借用物を受け取るまで、契約の解除をすることができる。ただし、書面による使用貸借については、この限りでない。
参考文献:有斐閣判例六法
(3)使用貸借の終了時期
旧597条に規定していた「借用物の返還の時期」・旧599条に規定していた「借主の死亡による使用貸借の終了」を今回の改正で新597条に規定している「一定の事実の発生による使用貸借の終了」と新598条に規定している「解除による使用貸借の終了」に区別して構築し直されました。
旧法から変更されたのは次の2つの場合になります。
期間の定めの有無 | 使用収益目的の定め有無 | 約定の目的に従った使用収益が終了 | 使用収益に足りる期間の経過 | |
① | × | × | ||
② | × | 〇 | × | 〇 |
上記表①の場合
(旧)貸主はいつでも返還請求をすることができる(旧597条3項)
⇒(新)貸主はいつでも契約の解除をすることができる(新598条2項)
上記表②の場合
(旧)貸主は直ちに返還請求をすることができる(旧597条2項但書)
⇒(新)貸主はいつでも契約の解除をすることができる(新598条1項)
※上記表の②の場合の使用収益の期間の経過がしていない場合は新597条1項,2項の適用はされず、また、新598条1項、2項による契約の解除もできません。
(4)原状回復義務及び収去義務の明文化
旧598条では、「借主は、借用物を原状に復して、これに付属させた物を収去することができる。」と規定されていたが、解釈上は同条を根拠として原状回復義務、収去義務を負うものとされていたため、今回の改正で上記解釈を明文化されました。
ただし、使用貸借に関する原状回復義務は、賃貸借と異なり、通常の損耗や経年変化も原状回復義務に含むかについては規定がないため、個々の契約の解釈によるとされています。
新599条1項
借主は、借用物を受け取った後にこれに付属させた物がある場合において、使用貸借が終了したときは、その付属させた物を収去する義務を負う。但し、借用物から分離することができない物又は分離するのに過分の費用を要する物については、この限りでない。
2項
借主は、借用物を受け取った後にこれに付属させた物を収去することができる。
3項
借主は、借用物を受け取った後にこれに生じた損傷がある場合において、使用貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が借主の責めに帰することができない事由によるものであるときはこの限りでない。
参考文献:有斐閣判例六法
(5)使用貸借における損害賠償等についての期間の制限
貸主が目的物を貸している期間中、貸主が目的物の状況を把握することは難しいため、借主に対する用法遵守義務違反に基づく損害賠償請求権が消滅時効にかかってしまうという不都合な事態になってしまうため、新600条2項において、契約の本旨に反する使用収益によって生じた損害賠償請求権に時効の完成の猶予が認められると規定されました。
新600条1項⇒旧600条と同じ
新600条2項
前項の損害賠償の請求権については、貸主が返還を受けた時から1年を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
参考文献:有斐閣判例六法
まとめ
使用貸借においても、実際の運用がはじまってからの動向を注視していく必要があるかとお思います。